最近出版業界では、大人向けの話し方・文章の書き方の本がよく売れているそうです。小さな子どもでもあるまいし、大人が何を今さら話し方や文章だ、と思われる方もいるかもしれませんが、私はこういう本も必要ではないかと思っています。部下からの報告を受けていると、言葉づかいや文章に問題のある場合が予想外に多いからです。もっと正確に言うなら、正しい言葉づかいで話ができて、文章もきちんと書ける部下が非常に少ない、と言わざるを得ません。
私は一日に何十回も報告を受ける立場にあります。きちんとした言葉になっていない話を聞くのは本当に苦痛です。話し言葉であれ書き言葉であれ、中には何の話かまったく理解できないほどひどいものもあります。要点がなく滅茶苦茶なもの、前半はそれなりに良いのに聞いているうちに核心がぼやけていってしまうもの、やたらと前置きが長いわりには肝心なところが抜けているもの。話し言葉だけではありません、報告書や企画書などの書類も同様です。ページをめくってもめくっても、何がポイントなのかまったく理解できないものがたくさんあります。そういった書類は主語述語がはっきりせず、文脈にまったく合わない単語が頻出したりしています。
上手な話し方、上手な文章とはどのようなものでしょうか? かくいう私も決して得意な方ではないのですが、それでも自分の考えをきちんと伝えることは非常に大切なことですので、ここにいくつか私なりのポイントを挙げてみようと思います。
おそらく女性読者の中には、「私は話すことには自信があるわ」と思っている人が多いことでしょう。確かに、「話すこと」に関しては男性よりも女性の方が有利だと思います。まず女性の声はトーンが高いので、遠くまではっきりと届く。男性の声は低いので、ぼそぼそと話されると聞き取るのも一苦労です。そして相手と上手にやり取りをしながら会話をする「双方向コミュニケーション」の面でも、明らかに男性より女性の方が得意な人が多いようです。
しかし「社会的な会話」となると話は別です。意外にこうした会話が不得意な女性が少なくありません。公的な会話において美辞麗句は必要ありませんし、流暢(りゅうちょう)に話す必要もありません。ただ簡潔に、ポイントを整理して話す力が求められているのです。上司は自分よりも忙しいものです。しかしたいていの女性は「要点」のみを話すことに慣れていません。女性は男性に比べると状況説明に時間をさくので、要点にたどり着くまでに時間がかかってしまう傾向にあるのです。
男女を問わず、話す技術を磨きたい人たちにお勧めしたいのが「KISS(キス)の法則」です。すでにご存じの方もいるかもしれませんが、これは「Keep It Simple and Short」の頭文字を取ったもので、「要点から、簡単に短く話せ」という意味になります。
上司に報告をする時、もしある程度長い報告をしたいなら、報告書には書いていない内容まできちんと補完して話をするようにし、反対に手短にするなら、一つの文章に要約して話せなければいけません。このために欠かせないのが、要点をきちんとまとめる能力なのです。アメリカ・スタンフォード大学経営大学院のチップ・ハース教授の著作『アイデアの力』には、次のような事例が紹介されています。
「今日ビバリーヒルズ高校のケネス・ピーターズ校長は、次週木曜日にサクラメントで開かれる新教授法セミナーに、ビバリーヒルズ高校の全職員が参加すると述べた。同セミナーでは誰々が演者として参加する」
この話の要点を学生に伝えるとしたら、いったい何になるでしょうか? 本で示された正解は「来週の木曜日は休校!」。本では、新聞記事を適切に読み取る例として挙げられていましたが、ポイントを要約する例題としても十分使えるでしょう。ここで大切なことは、「重要」だと思うポイントが、話し手と聞き手によって異なる可能性があるということです。自分が話し手の場合、もちろん相手側の「聞き手のポイント」の方が重要なのは言うまでもありません。
ポイントを押さえたら、これをさらに短く要約する技術も必要です。この技術を磨くためには、知る人ぞ知る「エレベーター訓練」が非常に有効です。「エレベーター訓練」とは、「上司と一緒にエレベーターの一階から一〇階まで上がる間に報告を終える」との仮定の下で、練習を行うこと。エレベーターのドアが開いて上司が下りる前までに、内容をすべて報告すると考えてみるのです。時間はわずかしかありませんから、要点から話さざるを得ません。ちなみに報告の要点はおおよそ二つに分けられます。「問題提起」と「解決策」です。それ以外の詳しい説明は書類に記載したり、後日追加説明を行うなどすればいいのです。
「5W1H」の原則も役に立ちます。誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように、を意識して報告するようにすれば、自然と会話の骨組みを作る習慣が身についていくでしょう。
最後に、自分の言語習慣を一度点検することもお忘れなく。意外に多くの人が、自分が一度述べたことを二度三度、繰り返して話すということをやってしまっています。また「あー」とか「おー」といった意味のない単語が会話の半分以上を占めている人もたくさんいます。こうした癖を改めるには、一度自分が話しているところを録音して聞いてみるといいでしょう。最近は携帯電話でも動画が録画できますから、自分の話している姿を録画してチェックしてみるのも手です。頭をフラフラさせたり肩をすくめたり、やたらと咳払いをしたり目をキョロキョロとさせたり……自分の知らなかった癖に驚くでしょう。
キス(KISS)のうまい女性は会話も上手! 次に報告書を書く時は、必ずこれを思い出しましょう。
間違った内容をもっともらしく
話してしまうことほど、嫌なことはない
ソポクレス(詩人)
アルファ・ガールの仕事術

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