それは、友人からお土産にもらった1つの石鹸から始まった。「フィレンツェで買ってきた」と、彼女は言った。中世の図版のような印刷がされた清潔な紙に包まれた石鹸は、アイリスのやさしい香りがした。香りの癒しを実感したのは、これが最初だった。
それから何年か経ち、旅先のフィレンツェで、世界最古の薬局の話を聞いた。
その歴史は、1221年にドミニコ会の修道僧が、自ら育てた薬草や花を使い、修道院内の薬局で薬剤を調合したことに始まる。メディチ家の庇護のもと、ルネサンスが花開いたフィレンツェ。メディチはメディスン(薬)の語源で、薬草や香料で富をなしたファミリーであると聞く。16世紀、カテリーナ・ディ・メディチが王妃としてフランスに嫁ぐ際に、その薬局で特別に調合された「王妃の水」のレシピが、後に旅商人の手に渡り、ドイツで「ケルンの水」という意味のオーデコロンが誕生したという。その物語を知れば知るほど、香りの魔術に引き込まれていくのだった。
翌日、ウフィッツィ美術館よりも、フェラガモ本店よりも先に、世界最古の薬局に走った。「王妃の水」を手に入れるために。木の扉を静かに開くと、古い薬局は安らかな芳香に満ちていた。製品のラベルを見て、かつて友人にもらった石鹸と同じ店だということが、その香りとともに思い出された。「王妃の水」は、この薬局の名前を冠したオーデコロン「サンタ・マリア・ノヴェッラ」として受け継がれている。それは、シトラスと花が溶け合う爽やかな香りがした。
そんなある日、オフィス近くの新丸ビルで、再びあの香りに出会う。ここに、ショップがあったなんて! 店はあのときの本店と同じ安らかな芳香に満ち、キャビネットの中には「王妃の水」の瓶が麗しく輝いていた。
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