
──心に残る味や食卓の風景はありますか?
たきさん:私は鎌倉市出身なので、その土地の名物みたいな料理は思いつかないのですが、思い出の味で言えば、祖父母の家に泊まった時の朝食「玄米ミルク粥」ですね。ハチミツを使った甘い味のお粥なのですが、もっと食べたいと言っても腹八分、いえ六分目くらいと決まっていました。それは祖父母の健康哲学だったんです。いつも、思う存分とはいかなかったから、余計に楽しみだったんでしょうね。あとは、祖父母の家に親戚一同集まる食卓はいつも賑やかで楽しかったことも大切な思い出。今でも親戚の集まりは楽しみです。

慈道さん:私も千葉県の出身で、成田空港に近い新興住宅地で子ども時代を過ごしていて、やっぱり土地の味というのは思いつかないのですが、私が印象深く覚えているのは、父が打ったおそばですね。父は数学者だったのですが、凝り性で料理も好きで。「男子厨房に入らず」という考えはないのですが、作るとなると1から始めて凝るので時間がかかる。おそばも粉から仕込むので、もうお腹がすいているのにずっと待たなくてはならないんです。味は…、待った分だけおいしかったように思います。
武藤さん:あら、3人とも関東出身なのね。私は東京の調布で育ちました。母は専業主婦だったので、おやつもババロアとかプリンなんかを手作りしてくれる人でした。すごくおいしかったし、今でも懐かしいですよね。お友達からも評判で、私の留守中もお友達がおやつを食べに来ていたりして。ちょっと自慢でしたね。
たきさんのお話にもありました親戚の集まりで、私にはかなり強烈な記憶があるんです。出だしからグロテスクで申し訳ないんですけど。鹿児島のなかでもとくに田舎にあった祖父母の家で、さっきまで生きていた鶏を絞めて「はい、今日のご馳走!」、なんて光景を目にしてからは、鶏が食べられなくなってしまって。食べるってすごく生々しいことなんだと、子ども心に焼き付いてしまったんでしょうね。今では、「ありがたく、命をいただきます」って、おいしく食べていますが。


──今では好き嫌いはない? 食に対して冒険をするほうですか?
他のおふたりはいかがですか?
武藤さん:そうですね。食べることは大好きで、冒険もしたいほうです。昨年も仕事で中国に出かけたのですが、地元の人が食べる物を食べてみたいと言ったら、「日本の方は、現地の食に慣れていないからやめたほうがいい」と止められました。それでも通訳の人に案内してもらい、トライしました。結果的においしくなかったけど、自分としては経験したかったことなので、満足しました。
たきさん:冒険、大好きです(笑)。最近、表情筋を動かしたり、体をほぐすエクササイズなどをお教えして、心からの笑顔と身体が表現する笑顔をマッチさせようという「スマイル行脚」を行っていて、地方の大学や老人ホーム、企業から招かれて伺うことが増えました。プライベートでも一人旅が大好きで、出かけた先の名物は地元の方にリサーチして必ずいただきます。
そうそう、熊本の天草にフラッと出かけた時は、たまたま仲良くなったご夫婦からご自宅の夕食にお招きいただくということがありました。最初は社交辞令かと思ったのですが、夕方になって「遠慮しないで来てください」って携帯に電話があって。2人だけで食べるはずだったステーキを切り分けて3人でいただいたのですが、それはなんとも言えない温かくて格別な味わいでした。しかも、そのご夫妻は私がお仕事でご縁のあった方の、かつての恩師だったことが分かり、「すごいご縁だなぁ」って感激しました。今でも、家族ぐるみでお付き合いをしていますよ。
慈道さん:私も食べるものの好き嫌いはないのですが、6才と4才の息子の母親として、今は時期が時期ということもありますから食の安全にはやはり気をつかいます。ですから、冒険派ではなく保守派ですね。
ただ、「縁」というキーワードでお話させていただきたいのですが、私の祖父はホシノ天然酵母の開発者なんですね。天然酵母というのはいわゆるパンの素で、天然酵母でパンを作る方は、あれに勝るものはないと言ってくださいます。最近、私のスクール(マリナーゼ★インテリア)に入って、パンのサロンをオープンされた方がいて、「ワインとホシノ天然酵母のパンをマリアージュさせたカフェをオープンするのが夢とおっしゃるんです。私はとくに祖父のことを人に話したことはないので驚いて。お話ししたら「わあ、なんて素敵なご縁!」って、すごく盛り上がりました。
たきさん:食が縁を結んだり、縁がおいしい食事を運んでくる。そういうことってありますよね!
慈道さん:幼い頃、天然酵母の開発途中で祖父から試作品のパンをもらっていたのですが、いつも「ちょっと苦手…」と思っていました(笑)。酵母の酸っぱい匂いが独特だったんですよね。ただ、やはり天然の味を知ってしまっているので、逆に今となっては市販されている大量生産のパンの中には、薬っぽい匂いがするなと感じてしまうものもあって。それに、酵母の香りがすると、やっぱり懐かしさは感じます。
武藤さん:近頃は酵母で作るパン屋さんも増えていますし、ドイツのパンとか、酸味がおしいパンもありますよね。もしかしたら、今おじいさまのパンを召し上がったら、おいしいって思うかも!
慈道さん:実はそうなんですよ!


──食と健康、というテーマでお話を伺えますか?

武藤さん:先ほど、食に対して冒険をするタイプだとお話ししましたけど、思い返してみると、もともとは好き嫌いは多いほうでした。とくに子どもの頃は食が細くて、学校給食が口に合わず毎日食べきれなかったんです。父の転勤で幼稚園の年長から3年間、長野で暮したのですが、まわりの子はみんなたくましくて給食を食べるのは早いし、スポーツが良くできて。都会から来た私は、まさにモヤシっ子で、大自然の中で育った子との違いを実感しました。
慈道さん:私が住んでいた地域は新興住宅地で、通っていた小学校はマンモス校だったんです。そして何でも競争で、給食もバクバク食べておかわりに行く、というか「行かなくちゃ!」みたいな空気感がありましたね(笑)。その学校は、生徒全員が“バク転”ができたり、千葉県の陸上大会でも優勝するような元気いっぱいの学校でした。
たきさん:食べることと生命力って、直接つながっていますよね。食に意欲があるということは生きることに意欲的ということですから、今の飽食の時代では、子どもたちも受動的、よく言われる草食系になってもしかたがないようにも思えますね。
全員:そうですね!
武藤さん:私は外食することも多いんですけど、豪華絢爛なお食事じゃなくて、手のぬくもりが感じられる“生きている料理”が好きなんです。だから、仲良しのオーナーシェフの店に行って、「今日はこういうものが食べたいの」ってお願いして。だいたいシンプルなメニューで、身体に優しくて、明日も仕事をがんばるぞ!と思えるものをいただいています。
たきさん:私は、家族全員がたくましくあるように、娘たちに好き嫌いができないように工夫してきました。その1つが、楽しい食卓を作るということと、珍しいものもとりあえず食べてみるという食への冒険心みたいなものです。ですから、うちの娘たちは食欲旺盛ですし、たくましいです。長女はもう大学生ですので、ボーイフレンドを連れてくることもあるのですが、気持ちよく食べる子に対しては、「彼、いいじゃない」とコメントしています(笑)。
慈道さん:私は子どもたちが食べる物の安全には気をつかっていますが、本人たちは本当によく食べるので頼もしく感じています。と、言いますか、もう怪獣か野獣のような状態なのですが。わが家はリビングに日の光がたくさん入るようにしているのですが、朝からたっぷり日を浴びればパッと目が覚めて、自然にお腹がすいて、元気に動き回って。で、夜は疲れてぐっすりというふうに、“体内時計”のリズムが整うように思います。そのおかげか、息子ふたりは身体も大きくて、「昭和の子みたい」なんてよく言われます。



──よく食事を一緒にする、大切な人にメッセージはありますか?

武藤さん:私にとっては、お店のスタッフが子どもみたいなものなんですが、うちの子たちは好き嫌いが多くて。そんなことでは、おいしい物を食べに連れていってもらえなくなるよって言っているんです。やっぱり、ごちそうする側にしたら、気持ちよく食べてもらえると、うれしいですものね。
私の好き嫌いを治してくれたのは、実は主人なんです。おいしい物が大好きで、目の前でパクパク食べられるものだから、自分もつられて食べてしまう。そうすると「あれ、これっておいしかったんだ!」って、何でも食べられるようになったんです。それで気がついたのは、好き嫌いがなくなると人間性のバランスも良くなるのではないかということ。ですからスタッフにも、好き嫌いはなくそうねって教えるようになりましたね。
慈道さん:大切と言われて思いつくのは、やはり息子たちですね。彼らは今、動物から人間らしさを身につけている中間的な感じで、そのプロセスを私は毎日見ているのですが、とてもおもしろいです。最初は自分では食べることができないのですが、手づかみでボタボタこぼしながら口に入れるようになって、そのうちスプーンやお箸が使えるようになる。食事のシーンは、子どもが成長して人間として確立していく様子が一番分かります。
食空間プロデューサーをしていると言いますと、さぞや華美な食卓で毎日食事をしていると思われるかもしれませんが、若干色にはこだわっても小さな男の子のいる食卓ですから、汚れること前提のごく普通の食卓です。ただ、端午の節句やお誕生、お正月など晴れの日は、やっぱり張り切ります。フルクロスにしてお花を飾って、お膳を置いて、という感じで。すると子どもは小さいながらに喜びますし、「晴れの日は特別にするもの」ということにすでに馴染んでいて、「今日は○○の日だから、これを飾るんだね」とか言うんです。それに、コーディネートをぐちゃぐちゃにすることもないですし、いつもよりきちんとするんです。
こうして自分の仕事が、子どもの年齢と共に、その人間性にバックグランドの1つとして溶けこんでいくというのは、とても幸せなことだなと思います。
武藤さん:家の中でそういう訓練を受けている慈道さんのお子さんは、レストランやお寿司屋さんに行ってもきちんとマナーを守れるお子さんになって、大人になるごとに人との関係を深めたり広げたりしていくのでしょうね。
たきさん:そうですよね。それに、仕事とプライベートのオンとオフと言ってもやっぱり1人の人間の側面ですから、完全には分けられないですし、バランス良く融合すると仕事もプライベートも何倍にも充実しますよね。食卓が仕事モードからプライベートに切り替える場にもなるけれど、仕事仲間や相手と食卓を共にすることで、親しくなったり。私たちは女性ということもあって、食卓をとくにそういう場として活用しているのかもしれないですね。
私がメッセージを送りたいのは、娘たちです。今、中学生の双子は、以前から憧れていた寮生活を送っていて、離れて暮しています。家族みんなで囲んだ食卓はたくさんの笑いがあって、おしゃべりが尽きなくて最高に楽しかった。改めてありがとうを、そして、休暇の間は、また一緒においしいものをいっぱい食べようねって言いたいです。
